『大分県はMTG界の魔境』
そんな風に言われるようになったのは本当につい最近のことである。
PPTQ『ドミナリア』は、カードプレイスにより開催されるPPTQとしては昨年12月の『アモンケット』から数えて5回目のイベントだ。
今回の参加者は29名、白熱したスイスラウンド5回戦+SE3回戦が行われた。
数年前まではアドバンスレベルの店舗もなく、MTGというカードゲーム自体下火な傾向であった大分県。
いまや毎週末店舗大会が開催され、月例イベントの数も増加する一方。
レガシーやモダン、果てはpauper等フォーマットの方も枚挙に暇がなく、プレイヤー層も古参から新参に加え続々と外国人プレイヤーまでもが参戦しまさにるつぼ状態である。
もはや毎週「今日はどこのイベントにでようか?」と悩むまでに至るMTGの都と化したこの現状を、地元プレイヤーは口を揃えて「魔境」と表現している。
勿論、そんな魔境大分県として覚醒するまではプロツアーの切符をかけて戦う競技イベントの定番たるPPTQもあまり盛り上がりのあるイベントとは言えなかった。
昨年から今年の春にかけてはまだベスト8の多くには県外プレイヤーの姿が目立ったし、地元古参プレイヤーの参加者も多いとは言えなかったのだ。
しかし、多くの新人プレイヤーがスタンダードのデッキを組み、毎週のFNMに参加。モチベーションあるプレイヤー達は県外のPPTQやGPに遠征を始めた。
その姿に触発されてか否か、古参勢の重い腰が上がり始め、このPPTQ『ドミナリア』においてはベスト8中の7人が大分県のプレイヤーという結果にまで繋がったのである。
地元プレイヤー達の切磋琢磨による、確かなレベルアップが感じられる大会となったのは未だ新参の部類に入る筆者にとっても感慨深いものがある。
さて、今回お届けするのはその大分県プレイヤー同士が激突したシングルエリミネーションの準決勝二回戦。
これに臨むのは、スミタ ジン(大分)。
レアルトマト大分中央店にてマジックの経験を積み、競技イベントでは初のベスト8進出を果たした。構築はもちろん、初心者としては珍しくリミテッドにも熱意を見せる期待の新人だ。
今回は現環境でも安定感抜群のティムールエネルギーを駆り、予選ラウンドを3-2の8位で突破。
《本質の散乱》やメイン・サイド合わせて《不屈の神、ロナス》を二枚採用するなどして、同型系に強い構築で臨んだ甲斐あり、狙い通り予選ラウンド・決勝ラウンド共にミラー戦では好成績を残してきている。
特に決勝ラウンド1回戦、地元では多くのプレイヤーに強豪として知られるカワシマ ユウキ(大分)とのティムールエネルギーミラーマッチを先手3T目の《自然に仕える者、ニッサ》の活躍によって破り、周囲のギャラリーをどよめかせた。
ここまでの長い時間のラウンドでの疲労感に加え初の大舞台に緊張気味だが、モチベーションは充分。RPTQ進出を目指しテーブルにつく。
迎え撃つのは、ナカムラ ジュンペイ(大分)。
大分県の地元大会は勿論、かつては数々の県外大会・GP・PPTQへ遠征を繰り返してきた古豪である。日本選手権にも2度の出場経験、レート制が採用されていた時代には大分県のレーティングを1800台で維持しトップに君臨し続けた。
自分では一線を退いたとは言うものの、先日のGP京都にもちゃっかり出場しており、ここでも11-4という好成績をしっかりと収めている。
積極的なイベント参加をしなくなった今なお県内生涯PWPランキングの上位に位置しており、店舗大会では若手プレイヤー達の壁として立ちはだかる。
今回の使用デッキはこちらもティムールエネルギー。
メインから打ち消しを搭載、サイドには《奔流の機械巨人》も控える等世界選手権で話題となった「桃園の契り」型ティムールに近い構成を使用し、予選ラウンドは当然のように3位で突破する安定感。
いつもどおり(?)新進気鋭のプレイヤーを迎え撃つ形となるが、そこはベテランらしく表情を変えることなく、また疲労をうかがわせる様子もなくテーブルにつく。
大分の時代の移り変わりを象徴する、『新参』対『古豪』の一戦が幕を開ける。
G1
先手は順位が上のナカムラ。
《植物の聖域》から《霊気との調和》で口火を切ると、2T目には《牙長獣の仔》というベストな立ち上がり。
新人スミタも負けてはいない。《森》からの《霊気との調和》、更に《牙長獣の仔》と全く同じ動きで対抗する。トップメタたるティムールのミラーマッチではよく見られる光景だ。
《牙長獣の仔》同士の対峙となったナカムラの3T目。
土地を置いた後しばし逡巡すると、おもむろに《牙長獣の仔》をアタックへ向かわせる。応じるスミタが対照的にノータイムでこれをブロックするのを見てから、ナカムラは《牙長獣の仔》のパンプアップを起動を宣言。
さらにスミタが追随、「スタックで能力起動します」とパンプアップを起動しようとする・・・・が、これを言い終える前にナカムラは無言で《蓄霊稲妻》を切りこれを除去。
スミタのエネルギーはきちんと使い切らせた上で、自身は3/3の《牙長獣の仔》を残す。コンバット慣れした熟練のプレイングが冴え渡る。
勿論、スミタも黙ってはやられない。
返しに《霊気拠点》をセットするとこちらも《蓄霊稲妻》でやりかえし盤面を掃除する。
お互い全く同じカードを使っての序盤の攻防。
しかし、ゲームの動きの変化はここから。
ナカムラが4T目にタップイン処理をしつつの《ならず者の精製屋》でエネルギーと手札を整えているのを尻目に、スミタは《根縛りの岩山》アンタップインから《逆毛ハイドラ》をたたきつける。
戦場の物量が少ない状態で、このクリーチャーが先に登場したのは大きい。
ナカムラの5T目、これに対抗するクリーチャーとして追加の《ならず者の精製屋》、さらに《牙長獣の仔》を展開し《逆毛ハイドラ》の一方的なビートダウンを許さない。
一気に地上の脅威を増やしたこの2アクションに対し、スミタは少し悩んだ挙句5マナをフルオープンで5ターン目を明け渡す。
そしてナカムラは6T目、ティムールエネルギーミラーにおいての重要カードの一枚《栄光をもたらすもの》を戦場へ送り出そうとする。
が、全て立てられたままの土地から対応してキャストされたのは《至高の意志》!
ダメージレースを一気に崩壊させかねない脅威を処理することに成功する。
ナカムラは打ち消しにも特に表情を変えることなく全クリーチャーを攻撃に参加させるが、さらに残る2マナからは《蓄霊稲妻》が飛び出し目下の地上の脅威たる《牙長獣の仔》を排除した。
打消しと除去の2アクションで鮮やかに対抗したスミタ、自分の6T目にはお返しとばかりに自身の《栄光をもたらすもの》を着地させることに成功する。
督励能力で一体の《ならず者の精製屋》を焼き払われ、戦場が一気に寂しくなったナカムラだが引きが芳しくない。戻ってきたターンにも、《ならず者の精製屋》を追加するに留まる。
優勢に勢いづきたいスミタだが緊張と経験のなさがここで少し顔を出す。
7T目、督励したはずの《栄光をもたらすもの》をアンタップしてしまい、慌てて自ら戦場の片隅に追いやるところから始まると、手札の《導炉の召使い》を戦闘前に追加することを忘れてしまい《逆毛ハイドラ》の能力を起動するためのエネルギーが足りず、戦闘で相打たれてしまう。
「やらかした・・・」と絶望の声をあげるスミタ。
しかし、叫びたいのはどちらかといえばナカムラのほうだったかも知れない。
《栄光をもたらすもの》以降のドローはやはり芳しくなく、既に不要なはずの8枚目・9枚目の土地を置くと渋い顔をしつつターンを返すに終わる。
デッキが応えたのはスミタのほうだった。
《つむじ風の巨匠》を展開すると、更に追加の《栄光をもたらすもの》がトップデッキから駆けつけ飛行8点クロックを形成。
ナカムラは《つむじ風の巨匠》で対抗するが、2体のドラゴンを受け止めきるにはエネルギーが足りない。
最後の飛行機械トークンが焼き払われたのを見届けると、ナカムラは土地を片付けるしかなかった。
新人がミスにもめげず、後手のゲームを勝利!
スミタ WIN!!
試合の模様を録画されていたので、サイドボーディング中もひたすら《逆毛ハイドラ》のミスに関して狼狽と後悔を繰り返すスミタ。
対照的にナカムラは「いや、土地引きすぎ・・・」と一言だけぼやくと速やかにサイドボーディングを終わらせる。
やはりこのあたりも経験の差か?
G2
再びナカムラの先手でスタート。
今回も両者1T目《霊気との調和》からスタートし、2T目ナカムラはやはり《牙長獣の仔を》を戦場へ送り出した。
これに対するスミタ、二枚目の土地を置くと速やかにターンの終了を宣言。
ナカムラの3T目、二回目の《霊気との調和》にスタックしてスミタは《削剥》をキャスト。エネルギーが4つになる前に《牙長獣の仔》を排除する。
ナカムラの手札に打ち消しないしインスタントタイミングでエネルギー得られるカードがあったなりしたときには大変なことになっていたが、ここはなんとか無事除去に成功。
ナカムラは気を取り直してサーチしてきた《島》をセットから《導炉の召使い》をキャスト。スミタもこれに倣うように《導炉の召使い》を出して、アクションの幅を広げていく。
4T目、ナカムラは《ならず者の精製屋》でドローすると、殆ど考えることもなく《森》をセットしターンを返す。
返すスミタはマナクリーチャーの恩恵を存分に発揮、4T目に《栄光をもたらすもの》で強襲をかけた。
が、マナクリがアクティブなのはナカムラも同じこと。
《導炉の召使い》の能力で青マナの捻出を宣言すると、《本質の散乱》をキャスト!
奇しく1ゲーム目と同じ、《栄光をもたらすもの》をカウンターする意趣返しである。
綺麗に対応して見せた後のナカムラ第5ターンは、《逆毛ハイドラ》を戦線に追加しつつの5点フルパンチ。
スミタは地上の脅威に対抗するべく追加の《導炉の召使い》と《牙長獣の仔》を並べるが、このクリーチャーをナカムラは《暗記+記憶》でバウンス。
マナクリーチャー達には当然地上の脅威を止めるだけの力はなく、《逆毛ハイドラ》による暴力が始まってしまう。
これに対し切り札の《不屈の神ロナス》による対抗を試みるが、神が顕現するためにはスミタの軍勢は貧弱すぎた。
《導炉の召使い》へロナス神のパンプアップ能力を起動するべくマナを寝かせた瞬間、温存されていたナカムラの《蓄霊稲妻》がキャストされれば、パワー6となった《逆毛ハイドラ》をとめる術はもう残されていなかった。
ナカムラ WIN!!
地元勢が多いPPTQの空気というのはなかなかよいもので、見知った顔がこの卓の周りを立ったり座ったりで見物し、雰囲気も和気藹々としている。
本当は競技大会としてはよくないのかもしれないが、時折プレイヤーと観客が細々とゲームについて話すさまも見られるなど、「アットホーム」な準決勝を多くの人が見守っていた。
そんな雰囲気だったので自分も悪いとは思いつつもサイドボーディング中の両者に、この大会の最大の目的たるRPTQへの出場について聞いてみた。
ナカムラ「まあ権利もらえるんなら出るよ」
ベテランは淡々と答えた。前回のPPTQ『イクサラン』の際には決勝で権利をトスしていたりもしたのだが、基本的に出れる競技大会には意欲を見せている。
「ティムールはミラーが嫌だったから本当は使いたくなかったんだけど」とデッキ選択についてはぼやきつつも、更なる飛躍にかける思いはやはりあるようだ。
一方の新人はというと
スミタ「えっ・・・出ていいんですかね?」
と弱腰。
周囲のギャラリーはおろかヘッドジャッジからも「出ろ!!!!」と総突っ込みを食らい、しゅんとなるスミタ。
学生の身分にはこういった競技大会の先の先、というのはまだまだ現実感のない話なのかもしれない。
しかし、この準決勝のテーブルこそその「先の先」へつながる真剣勝負の場なのである。新人の飛躍についても、ぜひとも期待したい。
G3
力強くキープを宣言する先手スミタに対し、後手ナカムラは少し考え込む。
ナカムラのハンドは赤マナが出ない土地三枚に対し、《至高の意志》と《ならず者の精製屋》と少々重い。その上残る二枚は現状の手札では撃つことすらままならない赤い除去二枚という悩ましい初手。
結局悩んだ末にキープするのだが、これが吉と出るか凶とでるのか。
最終ゲーム開始。
スミタは《霊気との調和》こそないものの、《植物の聖域》《尖塔断の運河》
と並べて色を揃えるとさらに《導炉の召使い》を出してマナ基盤を整えていく。
一方ナカムラは後手2枚分のドローでも赤マナを引き込めず、ドローゴー。
最初の勝負どころたる3T目、メインフェイズは土地を置く前から考え込むスミタ。アンタップインランドから手札の《ならず者の精製屋》を展開したいところだが、スミタの頭には先のゲームの《本質の散乱》がちらつく。
少し考えた挙句、先手ながら除去を構えることを優先。《導炉の召使い》はアタックさせ、このターンはタップイン処理して明け渡す。
ナカムラはやはり赤い土地を引き込めず、《至高の意志》を構えターンを返すのみ。ナカムラの引きの悪さと打消しへの憂慮が絶妙にミスマッチし、空白ターンを作ったのはおろか打ち消しを構えられてしまったスミタは、次ターンにプレイした《ならず者の精製屋》を予定調和で打ち消されてしまう。
このテンポアドバンテージを活かしたいナカムラの4T目は《森》のアンタップインから《逆毛ハイドラ》。
これに追いすがりたいスミタはエネルギー量で優ることを活かし、サイドカードである《多面相の侍臣》を《逆毛ハイドラ》としてキャスト。
・・・のだが、ここで1ゲームでも顔を覗かせた緊張が悪影響を及ぼした。
《逆毛ハイドラ》のCIPを誘発忘れでエネルギーを失ってしまったのだ。
これにペースを崩され平静さを失ったスミタ、ジャッジとのやり取りの後はどことなく手札のシャッフルすらぎこちない。
この混乱に乗じて(?)ナカムラがついに赤マナを引き込む。
《多面相の侍臣》はエネルギーが足りないために《削剥》で除去されてしまう。
続けて送り出す《つむじ風の巨匠》には《本質の散乱》、不朽した《多面相の侍臣》には《蓄霊稲妻》、《牙長獣の仔》には《反逆の先導者、チャンドラ》と的確に対処され徐々に追い詰められるスミタ。
チャンドラを攻めあぐねている間に、あまりに追い詰められたのかスミタは手札の除去の使い惜しんだ結果ナカムラのチャンドラを落とす最後のチャンスを失ってしまう。
既に決勝進出を決めていたアリヨシ アリヨシ(大分)はこのプレイを見て思わず悶絶し、軟体動物が如くその場でうねり狂った。
ターンエンドを宣言したスミタの背中に向かって、「壁を除去してチャンドラをなぐれええええええええ」と声なき声でアリヨシだけでなくギャラリーの全員が叫ぶが、勿論彼には届かない。
やがてナカムラのトップから奇しくもスミタの切り札でもあった《不屈の神ロナス》が姿を現すと、もはやスミタにこれを迎え撃つだけの気力もリソースも残されてはいなかったのだった。
ナカムラ WIN!!
ゲーム終了後、ギャラリーに徹していた先輩たちから説教タイムが始まり、対戦相手たるナカムラもいくつかの助言を挙げる。
またしてもしゅんとなるスミタだが、やはりそれらの助言に対しては真剣に頷く姿が見られた。
少し気の毒な試合となってしまったものの、SEでのこの経験は必ず彼の財産となり次の大舞台での糧となるのだろう。
その証拠にといってはなんだが、スミタは反省の後「まだやりたりないです」とつぶやくと、この後のスタンダードショウダウンに出場するべくダッシュで会場を後にしたのだった。
モチベーションある新参の様子を見送った後、勝者であるナカムラは静かに「疲れた」とだけこぼすと決勝のスプリット交渉へと赴くのであった。
そんな風に言われるようになったのは本当につい最近のことである。
PPTQ『ドミナリア』は、カードプレイスにより開催されるPPTQとしては昨年12月の『アモンケット』から数えて5回目のイベントだ。
今回の参加者は29名、白熱したスイスラウンド5回戦+SE3回戦が行われた。
数年前まではアドバンスレベルの店舗もなく、MTGというカードゲーム自体下火な傾向であった大分県。
いまや毎週末店舗大会が開催され、月例イベントの数も増加する一方。
レガシーやモダン、果てはpauper等フォーマットの方も枚挙に暇がなく、プレイヤー層も古参から新参に加え続々と外国人プレイヤーまでもが参戦しまさにるつぼ状態である。
もはや毎週「今日はどこのイベントにでようか?」と悩むまでに至るMTGの都と化したこの現状を、地元プレイヤーは口を揃えて「魔境」と表現している。
勿論、そんな魔境大分県として覚醒するまではプロツアーの切符をかけて戦う競技イベントの定番たるPPTQもあまり盛り上がりのあるイベントとは言えなかった。
昨年から今年の春にかけてはまだベスト8の多くには県外プレイヤーの姿が目立ったし、地元古参プレイヤーの参加者も多いとは言えなかったのだ。
しかし、多くの新人プレイヤーがスタンダードのデッキを組み、毎週のFNMに参加。モチベーションあるプレイヤー達は県外のPPTQやGPに遠征を始めた。
その姿に触発されてか否か、古参勢の重い腰が上がり始め、このPPTQ『ドミナリア』においてはベスト8中の7人が大分県のプレイヤーという結果にまで繋がったのである。
地元プレイヤー達の切磋琢磨による、確かなレベルアップが感じられる大会となったのは未だ新参の部類に入る筆者にとっても感慨深いものがある。
さて、今回お届けするのはその大分県プレイヤー同士が激突したシングルエリミネーションの準決勝二回戦。
これに臨むのは、スミタ ジン(大分)。
レアルトマト大分中央店にてマジックの経験を積み、競技イベントでは初のベスト8進出を果たした。構築はもちろん、初心者としては珍しくリミテッドにも熱意を見せる期待の新人だ。
今回は現環境でも安定感抜群のティムールエネルギーを駆り、予選ラウンドを3-2の8位で突破。
《本質の散乱》やメイン・サイド合わせて《不屈の神、ロナス》を二枚採用するなどして、同型系に強い構築で臨んだ甲斐あり、狙い通り予選ラウンド・決勝ラウンド共にミラー戦では好成績を残してきている。
特に決勝ラウンド1回戦、地元では多くのプレイヤーに強豪として知られるカワシマ ユウキ(大分)とのティムールエネルギーミラーマッチを先手3T目の《自然に仕える者、ニッサ》の活躍によって破り、周囲のギャラリーをどよめかせた。
ここまでの長い時間のラウンドでの疲労感に加え初の大舞台に緊張気味だが、モチベーションは充分。RPTQ進出を目指しテーブルにつく。
迎え撃つのは、ナカムラ ジュンペイ(大分)。
大分県の地元大会は勿論、かつては数々の県外大会・GP・PPTQへ遠征を繰り返してきた古豪である。日本選手権にも2度の出場経験、レート制が採用されていた時代には大分県のレーティングを1800台で維持しトップに君臨し続けた。
自分では一線を退いたとは言うものの、先日のGP京都にもちゃっかり出場しており、ここでも11-4という好成績をしっかりと収めている。
積極的なイベント参加をしなくなった今なお県内生涯PWPランキングの上位に位置しており、店舗大会では若手プレイヤー達の壁として立ちはだかる。
今回の使用デッキはこちらもティムールエネルギー。
メインから打ち消しを搭載、サイドには《奔流の機械巨人》も控える等世界選手権で話題となった「桃園の契り」型ティムールに近い構成を使用し、予選ラウンドは当然のように3位で突破する安定感。
いつもどおり(?)新進気鋭のプレイヤーを迎え撃つ形となるが、そこはベテランらしく表情を変えることなく、また疲労をうかがわせる様子もなくテーブルにつく。
大分の時代の移り変わりを象徴する、『新参』対『古豪』の一戦が幕を開ける。
G1
先手は順位が上のナカムラ。
《植物の聖域》から《霊気との調和》で口火を切ると、2T目には《牙長獣の仔》というベストな立ち上がり。
新人スミタも負けてはいない。《森》からの《霊気との調和》、更に《牙長獣の仔》と全く同じ動きで対抗する。トップメタたるティムールのミラーマッチではよく見られる光景だ。
《牙長獣の仔》同士の対峙となったナカムラの3T目。
土地を置いた後しばし逡巡すると、おもむろに《牙長獣の仔》をアタックへ向かわせる。応じるスミタが対照的にノータイムでこれをブロックするのを見てから、ナカムラは《牙長獣の仔》のパンプアップを起動を宣言。
さらにスミタが追随、「スタックで能力起動します」とパンプアップを起動しようとする・・・・が、これを言い終える前にナカムラは無言で《蓄霊稲妻》を切りこれを除去。
スミタのエネルギーはきちんと使い切らせた上で、自身は3/3の《牙長獣の仔》を残す。コンバット慣れした熟練のプレイングが冴え渡る。
勿論、スミタも黙ってはやられない。
返しに《霊気拠点》をセットするとこちらも《蓄霊稲妻》でやりかえし盤面を掃除する。
お互い全く同じカードを使っての序盤の攻防。
しかし、ゲームの動きの変化はここから。
ナカムラが4T目にタップイン処理をしつつの《ならず者の精製屋》でエネルギーと手札を整えているのを尻目に、スミタは《根縛りの岩山》アンタップインから《逆毛ハイドラ》をたたきつける。
戦場の物量が少ない状態で、このクリーチャーが先に登場したのは大きい。
ナカムラの5T目、これに対抗するクリーチャーとして追加の《ならず者の精製屋》、さらに《牙長獣の仔》を展開し《逆毛ハイドラ》の一方的なビートダウンを許さない。
一気に地上の脅威を増やしたこの2アクションに対し、スミタは少し悩んだ挙句5マナをフルオープンで5ターン目を明け渡す。
そしてナカムラは6T目、ティムールエネルギーミラーにおいての重要カードの一枚《栄光をもたらすもの》を戦場へ送り出そうとする。
が、全て立てられたままの土地から対応してキャストされたのは《至高の意志》!
ダメージレースを一気に崩壊させかねない脅威を処理することに成功する。
ナカムラは打ち消しにも特に表情を変えることなく全クリーチャーを攻撃に参加させるが、さらに残る2マナからは《蓄霊稲妻》が飛び出し目下の地上の脅威たる《牙長獣の仔》を排除した。
打消しと除去の2アクションで鮮やかに対抗したスミタ、自分の6T目にはお返しとばかりに自身の《栄光をもたらすもの》を着地させることに成功する。
督励能力で一体の《ならず者の精製屋》を焼き払われ、戦場が一気に寂しくなったナカムラだが引きが芳しくない。戻ってきたターンにも、《ならず者の精製屋》を追加するに留まる。
優勢に勢いづきたいスミタだが緊張と経験のなさがここで少し顔を出す。
7T目、督励したはずの《栄光をもたらすもの》をアンタップしてしまい、慌てて自ら戦場の片隅に追いやるところから始まると、手札の《導炉の召使い》を戦闘前に追加することを忘れてしまい《逆毛ハイドラ》の能力を起動するためのエネルギーが足りず、戦闘で相打たれてしまう。
「やらかした・・・」と絶望の声をあげるスミタ。
しかし、叫びたいのはどちらかといえばナカムラのほうだったかも知れない。
《栄光をもたらすもの》以降のドローはやはり芳しくなく、既に不要なはずの8枚目・9枚目の土地を置くと渋い顔をしつつターンを返すに終わる。
デッキが応えたのはスミタのほうだった。
《つむじ風の巨匠》を展開すると、更に追加の《栄光をもたらすもの》がトップデッキから駆けつけ飛行8点クロックを形成。
ナカムラは《つむじ風の巨匠》で対抗するが、2体のドラゴンを受け止めきるにはエネルギーが足りない。
最後の飛行機械トークンが焼き払われたのを見届けると、ナカムラは土地を片付けるしかなかった。
新人がミスにもめげず、後手のゲームを勝利!
スミタ WIN!!
試合の模様を録画されていたので、サイドボーディング中もひたすら《逆毛ハイドラ》のミスに関して狼狽と後悔を繰り返すスミタ。
対照的にナカムラは「いや、土地引きすぎ・・・」と一言だけぼやくと速やかにサイドボーディングを終わらせる。
やはりこのあたりも経験の差か?
G2
再びナカムラの先手でスタート。
今回も両者1T目《霊気との調和》からスタートし、2T目ナカムラはやはり《牙長獣の仔を》を戦場へ送り出した。
これに対するスミタ、二枚目の土地を置くと速やかにターンの終了を宣言。
ナカムラの3T目、二回目の《霊気との調和》にスタックしてスミタは《削剥》をキャスト。エネルギーが4つになる前に《牙長獣の仔》を排除する。
ナカムラの手札に打ち消しないしインスタントタイミングでエネルギー得られるカードがあったなりしたときには大変なことになっていたが、ここはなんとか無事除去に成功。
ナカムラは気を取り直してサーチしてきた《島》をセットから《導炉の召使い》をキャスト。スミタもこれに倣うように《導炉の召使い》を出して、アクションの幅を広げていく。
4T目、ナカムラは《ならず者の精製屋》でドローすると、殆ど考えることもなく《森》をセットしターンを返す。
返すスミタはマナクリーチャーの恩恵を存分に発揮、4T目に《栄光をもたらすもの》で強襲をかけた。
が、マナクリがアクティブなのはナカムラも同じこと。
《導炉の召使い》の能力で青マナの捻出を宣言すると、《本質の散乱》をキャスト!
奇しく1ゲーム目と同じ、《栄光をもたらすもの》をカウンターする意趣返しである。
綺麗に対応して見せた後のナカムラ第5ターンは、《逆毛ハイドラ》を戦線に追加しつつの5点フルパンチ。
スミタは地上の脅威に対抗するべく追加の《導炉の召使い》と《牙長獣の仔》を並べるが、このクリーチャーをナカムラは《暗記+記憶》でバウンス。
マナクリーチャー達には当然地上の脅威を止めるだけの力はなく、《逆毛ハイドラ》による暴力が始まってしまう。
これに対し切り札の《不屈の神ロナス》による対抗を試みるが、神が顕現するためにはスミタの軍勢は貧弱すぎた。
《導炉の召使い》へロナス神のパンプアップ能力を起動するべくマナを寝かせた瞬間、温存されていたナカムラの《蓄霊稲妻》がキャストされれば、パワー6となった《逆毛ハイドラ》をとめる術はもう残されていなかった。
ナカムラ WIN!!
地元勢が多いPPTQの空気というのはなかなかよいもので、見知った顔がこの卓の周りを立ったり座ったりで見物し、雰囲気も和気藹々としている。
本当は競技大会としてはよくないのかもしれないが、時折プレイヤーと観客が細々とゲームについて話すさまも見られるなど、「アットホーム」な準決勝を多くの人が見守っていた。
そんな雰囲気だったので自分も悪いとは思いつつもサイドボーディング中の両者に、この大会の最大の目的たるRPTQへの出場について聞いてみた。
ナカムラ「まあ権利もらえるんなら出るよ」
ベテランは淡々と答えた。前回のPPTQ『イクサラン』の際には決勝で権利をトスしていたりもしたのだが、基本的に出れる競技大会には意欲を見せている。
「ティムールはミラーが嫌だったから本当は使いたくなかったんだけど」とデッキ選択についてはぼやきつつも、更なる飛躍にかける思いはやはりあるようだ。
一方の新人はというと
スミタ「えっ・・・出ていいんですかね?」
と弱腰。
周囲のギャラリーはおろかヘッドジャッジからも「出ろ!!!!」と総突っ込みを食らい、しゅんとなるスミタ。
学生の身分にはこういった競技大会の先の先、というのはまだまだ現実感のない話なのかもしれない。
しかし、この準決勝のテーブルこそその「先の先」へつながる真剣勝負の場なのである。新人の飛躍についても、ぜひとも期待したい。
G3
力強くキープを宣言する先手スミタに対し、後手ナカムラは少し考え込む。
ナカムラのハンドは赤マナが出ない土地三枚に対し、《至高の意志》と《ならず者の精製屋》と少々重い。その上残る二枚は現状の手札では撃つことすらままならない赤い除去二枚という悩ましい初手。
結局悩んだ末にキープするのだが、これが吉と出るか凶とでるのか。
最終ゲーム開始。
スミタは《霊気との調和》こそないものの、《植物の聖域》《尖塔断の運河》
と並べて色を揃えるとさらに《導炉の召使い》を出してマナ基盤を整えていく。
一方ナカムラは後手2枚分のドローでも赤マナを引き込めず、ドローゴー。
最初の勝負どころたる3T目、メインフェイズは土地を置く前から考え込むスミタ。アンタップインランドから手札の《ならず者の精製屋》を展開したいところだが、スミタの頭には先のゲームの《本質の散乱》がちらつく。
少し考えた挙句、先手ながら除去を構えることを優先。《導炉の召使い》はアタックさせ、このターンはタップイン処理して明け渡す。
ナカムラはやはり赤い土地を引き込めず、《至高の意志》を構えターンを返すのみ。ナカムラの引きの悪さと打消しへの憂慮が絶妙にミスマッチし、空白ターンを作ったのはおろか打ち消しを構えられてしまったスミタは、次ターンにプレイした《ならず者の精製屋》を予定調和で打ち消されてしまう。
このテンポアドバンテージを活かしたいナカムラの4T目は《森》のアンタップインから《逆毛ハイドラ》。
これに追いすがりたいスミタはエネルギー量で優ることを活かし、サイドカードである《多面相の侍臣》を《逆毛ハイドラ》としてキャスト。
・・・のだが、ここで1ゲームでも顔を覗かせた緊張が悪影響を及ぼした。
《逆毛ハイドラ》のCIPを誘発忘れでエネルギーを失ってしまったのだ。
これにペースを崩され平静さを失ったスミタ、ジャッジとのやり取りの後はどことなく手札のシャッフルすらぎこちない。
この混乱に乗じて(?)ナカムラがついに赤マナを引き込む。
《多面相の侍臣》はエネルギーが足りないために《削剥》で除去されてしまう。
続けて送り出す《つむじ風の巨匠》には《本質の散乱》、不朽した《多面相の侍臣》には《蓄霊稲妻》、《牙長獣の仔》には《反逆の先導者、チャンドラ》と的確に対処され徐々に追い詰められるスミタ。
チャンドラを攻めあぐねている間に、あまりに追い詰められたのかスミタは手札の除去の使い惜しんだ結果ナカムラのチャンドラを落とす最後のチャンスを失ってしまう。
既に決勝進出を決めていたアリヨシ アリヨシ(大分)はこのプレイを見て思わず悶絶し、軟体動物が如くその場でうねり狂った。
ターンエンドを宣言したスミタの背中に向かって、「壁を除去してチャンドラをなぐれええええええええ」と声なき声でアリヨシだけでなくギャラリーの全員が叫ぶが、勿論彼には届かない。
やがてナカムラのトップから奇しくもスミタの切り札でもあった《不屈の神ロナス》が姿を現すと、もはやスミタにこれを迎え撃つだけの気力もリソースも残されてはいなかったのだった。
ナカムラ WIN!!
ゲーム終了後、ギャラリーに徹していた先輩たちから説教タイムが始まり、対戦相手たるナカムラもいくつかの助言を挙げる。
またしてもしゅんとなるスミタだが、やはりそれらの助言に対しては真剣に頷く姿が見られた。
少し気の毒な試合となってしまったものの、SEでのこの経験は必ず彼の財産となり次の大舞台での糧となるのだろう。
その証拠にといってはなんだが、スミタは反省の後「まだやりたりないです」とつぶやくと、この後のスタンダードショウダウンに出場するべくダッシュで会場を後にしたのだった。
モチベーションある新参の様子を見送った後、勝者であるナカムラは静かに「疲れた」とだけこぼすと決勝のスプリット交渉へと赴くのであった。